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ワンマン列車から降りるとむわっとした暑さと蝉の音に包まれた。へたばる俺に気にも留めず影は駅舎を出て行く。
あの小さな影は上京し働き始めた頃から姿を現わす様になった変な奴だ。影が田舎に帰ると騒ぎ出すから仕方なく帰省することにした。
すたすたと歩く影を追っていると懐かしい景色が通り過ぎていく。青空に浮かぶ巨大な入道雲、何処までも続く田んぼ道、びしょ濡れで遊んだ河原、閉店した駄菓子屋、お祭りで騒いだ神社。風景がいつの間にか変わっていて昔はどんなだったか、いつもそこにいた自分、無邪気に遊んだ思い出を忘れてしまった。
坂に差し掛かる辺りで影が言った。
 
「一番早くこの坂のぼった人が勝ちね?よ~いどん!」
 
突然告げられた合図。影は小さいながらもぐいぐい駆け上って行く。負けたくない。つい本気を出すと影をあっという間に追い抜いて頂上に着いてしまった。そこからは村を一望できた。一番好きな思い出の場所。
ファンタジー
公開:23/08/05 20:00

社 真秀

空想世界を広げる為書き連ねます。アドバイス、ご指摘いただけると幸いです。

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