落としもの

若者はおらず、ジジババばかりが残る村落。限界集落に指定され、人は減る一方…
田畑しかないこんなところに住みたいなんて者はいないだろうと諦めていた。
だが最近、この村に移住者が集まっている。
人が少ないからこそ、人間の目を気にせずのびのびと暮らせる。そんな自由を求め、わざわざこんな山奥まで落ち延びて来た者達がいる。
それは兎だった。自らを”月の兎”と名乗る彼らは農作業が大好きで、今も餅つき用の米を作っている。
そのノウハウを学ぶ姿に儂らも姿勢を正した。
そんな兎を手伝う蛙も、落ち延びて来た者達だ。聞けば「鳴き声がうるさい！」と住んでいた田んぼを追い出されたらしい。
大きな声で歌いたい蛙達は、今も田んぼでオタマジャクシに歌を教えている。
休憩時間になると、兎と蛙は相撲が大好きでよく泥んこになって遊んでいる。
儂らは腰を落とし、もの珍しい白熱した試合を楽しむ。
こんな田舎暮らしも、悪くはない。