落とし物

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財布を拾った。周囲には誰もいない。中身を確認して息を呑んだ。
「5万円……」
すると、頭の中で声が聞こえた。
「いいねぇ、パーッと使っちまおうぜ」
「お前は俺の中の悪魔!」
「馬鹿な事はおやめなさい」
「こっちは天使! そ、そうだよな。」
「兄ちゃん、俺に預ければ倍にして返してやるぜ」
「誰だこのおっさん!?」
「それより、今日が月の文学館の締め切りだけど」
「忘れてた! まだ何にも書いてない……って誰!? 今それ言う必要ある!?」
「あの~すいません」
「まだいるのか! 今度は誰だ!?」
「それ、僕の財布じゃないかと」
「え? あ、これ? あ~えっと、そこに落ちてました」
男は財布を受け取ると、訝し気な顔をしながらもお辞儀をして去っていった。
頭の中で声がする。
「これでよかったじゃねえか、なあ兄ちゃん」
「おっさん。……まあな」
「ところで1万貸してくんねえか」
「お前もう出てくんな」
その他
公開:23/07/29 22:26

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