白い椅子

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小さなテーブルをはさんでふたつ向きあう白い椅子のひとつに座る。もうひとつには誰も座らない。
椅子に座ると声がきこえる。向きあった椅子から喋りはじめたみたい。話をつづけるが、よくききとれない。若い声みたいだが経験を積んだ声のようでもある。女性か男性か。どちらともとれる中性的な声。断片的にわかることばをつないでみるがやはり意味は不明。だけど、きくうちに応えしまう。
「ああ、なるほど」
声はつづく。楽しい話のようだ。
「ははは、そうですか」とあいづち。
椅子からの声は、もしかすると私の頭のなかの声?脳内の声?そんなばかな。
声は知らない話の断片ばかりつづける。周りに人はいない。海風がさらさらと夕方の浜辺はさびしい。椅子の声はつづく。
「そうですね、ほんとうに」
そのうち声のトーンが落ちてきた。そろそろ終わりかなと思って、
「じゃあ」と言うと
声はすっぱりと途絶えた。
私は椅子から腰をあげた。
その他
公開:23/07/29 09:31

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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