いつか消える夏

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 人生に疲れた人が迷い込む夏がある。
そこは一度も行ったことがないはずなのに、どこか懐かしさを感じる場所。会ったことないはずなのに、親切にしてくれる人がいる。住んだはずのない居心地のいい実家がある。
 スマホやインターネットはないが、代わりに仕事をしなくていい。ただ、のんびりとした時間が流れる。
 周りに流されるがまま、山に行って虫を採ったり、川で水遊びをしたり、キンキンに冷えたスイカを食べて、夜には花火をして知らない誰かと笑い合う。

 ひとしきり夏を満喫すると退屈になる。

 どれだけ楽しくても、繰り返される日常に飽きを感じる。
 そこまで来て初めて、自分からなにかしようと行動する。
 そして気づく。それこそがあの夏に置き忘れていたものだと。

 それを思い出すと夏は消えていく。
前を向いているものは、その夏には居られない。
その他
公開:23/07/21 07:02
更新:23/07/21 07:26

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