落とし物がございます

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ATMの操作を済ませ、外へ出ようとしたところ、
『落とし物がございます』と機械音に呼び止められた。
普通は『忘れ物がございます』だろうに。不思議に思いながら足元を見ると、財布に入れたはずの利用明細が落ちていた。
下にセンサーがあるのか。最近の機械は優秀だと感心し、頭を下げて銀行を出た。

帰り道に自販機で飲み物を買い、お釣りを取ったところでまたも、
『落とし物がございます』
釣銭は回収したはずだ。コイン返却口と取り出し口を探ったが何もない。念の為膝をついて自販機の下を覗き込む。
先月失くした家の鍵が落ちていた。合鍵はあったが、お気に入りのキーホルダー付きで地味にショックだったのだ。
「探してたんだ、ありがとう!」
お礼にもう1本買い、ほくほくしながら家路を急ぐ。
点滅の青信号を小走りに渡りかけた時、
『落とし物がございます』
反射的に立ち止まった目の前を、猛スピードの車が突っ切って行った。
SF
公開:23/07/24 17:08
月の音色 月の文学館 テーマ:落としもの

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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