ささやく

部長の長話に、商談に訪れた女性が、ほぅ…と息を吐く。
眉を顰める部長。その吐息を侮辱されたとみてか、商談を打ち切ろうとする。
「ごめんなさい。部長さんのお話があまりにもほっこりして、つい…」
女性の謝罪に部長は上機嫌で商談を再開する。
いやいや、あんなのどう考えても社交辞令だろう。
でも、凄く自然だったなぁ…とても噓には思えない。
という事はこの女性、本当に部長の話にほっこりしていたのか？
道間声で要点の得ない話。あれのどこにほっこりする要素があるのだろう？
思わず首を傾げてしまう。

商談が成立し、部長が立ち去った後、私は女性に「あの話のどこにほっこりする要素がありましたか？」と聞いてみた。
女性は私の耳元に口を寄せると「京都では”疲れる”ことを”ほっこりする”って言うんです」と囁くように教えてくれた。
驚いて女性を見ると、いたずらが成功した子どものような憎めない笑みを浮かべていた。