海面トランプ

巻貝から零れ落ちた海水が、床に広がると同時に無数のカードへ変化する。
カードの両面には揺らめき光る海面が広がり、ハートやスペード、ダイヤやクローバーが波間をゆらゆら浮かんでいる。

「海面トランプって言うらしいんだ。」

仕事から帰ってきた父が、私服にも着替えず興奮した様子で私達に見せてきた。

「…耳を澄ますと波の音も聞こえるわ！」

爽やかな潮騒から広大な海へ想いを馳せるように母が言う。
私と弟は、トランプから運ばれてくる潮風の香りに気づき、顔を見合わせた。

海面トランプがすっかり気に入った私達は、ババ抜きをすることにした。
配布されたトランプを眺める。すると、クローバーの３のカードに浮き輪をしたクローバーが1ついることに気が付いた。どうやら泳ぎが苦手らしい。

揺れる波と心理戦。結果は私の負けだった。
手元に残ったジョーカーは、嘲笑うように豪快なバタフライを私に見せつけていた。