はじける

リップシンクをご存知だろうか？口パクと言った方が分かりやすいかもしれない。
音楽番組などで披露すれば「手抜き」だの「ちゃんと歌え」だの心無い言葉に晒される。
だが私からすればリップシンクは歌う事より難しい。
何せ本当に歌っているかのように見せる技術が必要なのだ。歌と口の動きをシンクロさせないといけない。これがどれだけ難しいか分かっていない。
そもそもトークの喉と歌う喉は別物だ。よほどのプロでない限り切り替えは難しい。
だからリップシンクが必要なんだ。私だってリップシンクのお世話になっている。
なにせ私の喉は生まれつき声が出せない。それでも私は歌手である。
私の歌は借り物の歌。この声は体を満足に動かす事の出来ない親友の声。
私は今日も親友の声でステージに立つ。私と親友の二人三脚のライブ。
会場がはじける。誰もリップシンクに気付いていない。
私も歌う。声は出せなくても、この思いは伝えたいから。