はじける

「…はじけない」
旅のお侍さんが私達夫婦に頭を下げた。
こういう時は「かたじけない」っていうものじゃないの？
「『はじけない』は、『自分はいないものとして扱って貰って構いません。決してはしゃぐ事なく、静かにしています』って意味なんだ」
私の疑問に夫が答えてくれた。
成程。今日は私達の婚礼、祝いの席。
隅とはいえ、知らぬ人の婚礼に同席するのは少々居心地が悪いだろう。
静かに食事を口に運ぶお侍さんに夫は声をかける。
「お侍様。今日は私達の祝いの席でございます。旅の恥は搔き捨て。この場を明るくする為、恥を蹴って、はじけてはもらえないでしょうか？」
「それでは、お言葉に甘えさせて頂きます」
お侍さんは私をじっと見つめ、懐から取り出した櫛を渡してきた。
「キヨ。幸せになるんだよ」
それを見て、私はお侍さんの正体に気が付き、思わず抱き着いた。
「おっとぅ…」
生き別れの父と再会した私の感情がはじけた。