弾春

2
3

立春も十日を過ぎた頃、福の神から節分豆が届いた。
合掌していただく。長年の豆まき合戦も形式と化し、今やお歳暮並みの贈答品だ。豆はぶつけるものでなく、炒って食べるもの。鬼の僕でもそれくらい知っている。

『はじける豆。賞味期限は今日中です』
のし紙に書かれた伝言に首を傾げる。節分にしては遅いし、手違いでもあったのか。不安を抱えつつ豆を火にかける。
――ポン!と鍋の豆が突然はじけた。
立て続けの破裂に驚き、頭の角を押さえる。爆竹の様な音と勢いはしばらく続き、やがて音が止む頃には、甘くほろ苦い香りが漂ってきた。

鍋の中でこげ茶色に染まった、不思議な形の豆を見つめる。
びっくりしたけれど、おかげで長年の間に積み重なった、照れや恥の気持ちが蹴り飛ばされた様だ。

賞味期限は今日中だったな。鍋を片手に鬼ヶ島を飛び出す。
今から行くから一緒に食べよう。
胸の奥に火がともり、鼓動のはじける音が聞こえた。
青春
公開:24/02/19 17:08
月の音色 月の文学館 テーマ:はじける

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO

ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容