老師は二歳

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小高い丘と聞いていたがけっこう険しい山道である。ようやく一人が通れる狭い坂をうねうねと登ると石段を何段も上がりそれから木の根を跨いだり藪の下をくぐったりして、渓流の丸太橋をそろそろ渡る頃にはもう日が暮れかかり、林には鳥の声が響いた。
「着いたよ」案内されたのは杉の木に囲まれた平地に建つ白い建物。古めかしい祠を想像していたが目の前にはコンクリート打放しのシンプルでキュービックな近代建築。小さな美術館と言われてもおかしくない。窓はなく正面にドアがひとつ。「さあ」と促されてドアの前まで歩くとすっとドアが開いた。入ると外は薄暗いのに中はぼんやりと明るくて暖かい。正面の肘掛け椅子に一人座っている。老師だ。ここは宗教教団でも学術機関でもなく思考するだけの場所。自己、存在、身体、時間、世界などに疑問を持つものが思考を巡らす場である。師は噂通り二歳の童児、にこやかな笑顔で口を開く「いらっちゃいまちぇ」
その他
公開:24/02/19 09:53

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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