私が紐であったとき

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私が一本の紐であったとき私はだらりと垂れるのが好きだった。日当たりのよい縁側で坪庭に向いて垂れる。地面には届かずに宙ぶらりん。家人は留守で猫だけが同じようにとなりでだらっと寝ている至福のひととき。
紐は結ばれる。結び方はそれぞれ。柔らかい指で丁寧に蝶々結びをしてくれる女の人は大好き。無骨な男に堅く二重三重に結ばれるのは嫌い。子供に結ばれるのはいい。いつほどけるのかわからないあやふやな結びが楽しみだった。
紐は縛られる。段ボール紙の束とか箱とか布団とかを縛る。縛られるのはもちろんダンボール、箱、布団とかだけど紐もまた縛られる。ふわふわの布団をきつく緊縛する体験は好きになれなかった。緊張するのはそして緊張を強いられるのは何より嫌いだった。ほどかれて垂れるのが好きなのだ。垂直に垂れたり床に水平に伸びたり、真っ直ぐな状態が好きなのだ。それに気づいた私は棒になると決めた。今では私は一本の棒である。
その他
公開:24/02/21 10:48

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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