スポーツ少年少女には珈琲を飲ませろ

子どもの頃、練習終わりに父は必ず珈琲を淹れてくれた。私はこの珈琲が大嫌いだった。
父はミルクや砂糖を入れる事を許してくれなかった。ブラック珈琲は当然苦い。涙が出るほど苦い。
何でこんな思いをしてまで飲まなきゃいけないんだ？こんな辛い思いをするのなら、卓球なんてやめてしまいたかった。
珈琲を飲まされた夜は決まって悪夢を見た。試合で負けた苦い思い出が珈琲の後味のように夢に出てくる。
朝、悔しさで目を覚ます。もっと上手くなりたくて、試合に勝ちたくて練習に励んだ。
手のひらに出来た硬いマメは悔しさの象徴だ。

「スポーツ選手は誰しも、苦い思いを経験している」
世界大会で優勝した私はインタビューでそう答えた。
あの苦い経験があったからこそ、今の私がある。あの苦い珈琲が、私の挫けない心を養った。
だから私も、手に出来たマメから珈琲豆を採取する。
私の経験が凝縮されたそれを、未来の卓球選手達へと贈った。