立方体書店

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妙な名前に惹かれて書店に入ってみた。シンプルな棚には同じ大きさの立方体が並ぶ。一辺三十センチくらい。見た目が全然違う。素材が異なるのだ。手前の立方体は紙の束みたい。ぶ厚い本の小口の感じで表紙も背もない。
「いらっしゃい」店主が奥から声をかけてくれた。
「この書店は立方体ばかりですか」
「すべて本です」
「読めるんですか、これらを」
「紙の立方体を手にとってください」
言われるままに手で持ってみる。意外に重い。
「感じるでしょ、紙の質感、風合いなど」
「確かに」
「それは入門編です。立方体はいろんな読み方ができます。読者に任せられます」
そんなものかと棚を見直す。透明なアクリル樹脂の立方体、木材やゴムの立方体。ブロンズのどっしりとした立方体。合板の箱のような立方体。三十センチ四方のアルミ板がある。
「これは?」と聞くと店主が「それは空気の立方体。台座の上の空気を読むんです。上級者向けですな」
その他
公開:24/02/17 09:51

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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