消せない罪

　教壇に立つ先生にバレないよう、私は隠し持っていた小さなスプレーを取り出す。

　これはカンニングスプレー。
　自分に吹きかけると、スプレーに入れておいた記憶を思い出せる、そんな不思議アイテムだ。

　人間の経験ならば、どんな記憶もＰＣを通してスプレーに入れられる。
　短時間で忘れてしまうが、カンニングやメモ代わりに使える便利グッズ。

　昨晩、私は同学年の子が集うＳＮＳにアクセスして、
　そこで配布されていたテストの記憶をダウンロードして準備万端である。

　ありがとう匿名の誰かさん。これで、赤点回避は間違いなしだ。

　皆やっているから大丈夫。そう言い聞かせて、手首にしゅっとかけた。

　けれど、赤点回避どころか、私は試験を受けることすら出来なかった。
　いきなり嘔吐しながら倒れて、保健室に運ばれたから。

　もうあのサイトなんか使わない。匿名の誰かさんを恨みながら、そう心に誓った。