引っ越した理由

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 ミキの新居からは、キレイな演奏が聴こえてくる。

 それに聴き入っていると、ミキはその演奏を“トイレの音姫から着想を得て、工事の騒音を掻き消す電子音”だと口にした。──んな馬鹿なと思ったけれど、窓からは確かに工事現場が見えた。

「特定の周波数の音を流すと、幻聴で美しい音色が聴こえるようになるの。騒音すら気にならなくなる音がね」

 むかし、区画整理の時に苦情が大量に押し寄せて、この音が開発されたと言う。

 そんな技術があるんだなーと思っていると、ミキは「あまり聴かないほうがいい」と眉を顰めた。どうして、と私が首を傾げると、ミキは「電子ドラッグだから。聴きすぎると、一分一秒でも脳に音を流さないと堪えられなくなっちゃう。何が何でも聴きたくなるの」と言った。

「ここに住むのに、ミキは大丈夫なん?」

「この付近のカフェに通ってたから、わたし、耐性あるのかも」
 そう言ってミキは苦笑した。
SF
公開:24/02/08 02:58
更新:24/02/08 03:16

あおい。

ショートショート初めてですが、何卒宜しくお願いいたします。

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