溶けなかったもの

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 私が小学生の頃、溶けない雪が流行っていた。

 熱で溶けないし、触っても冷たくない。
 私にも買ってとお母さんにねだったけれど、風情がないからダメと言われたのを今も覚えている。そのせいで私は学校に馴染めなかった。今にしてみれば、きっとお金がなかったんだと思う。

 そんな厳しい母に嫌気を差した私は、高校を卒業して家を飛び出した。
 それから帰ることもなく、結局、母の死に目に会うことはできなかった。

 久しぶりに実家に帰ると、老けた父だけが迎えてくれた。優しくて、無口な人。
 父は何の説明もなく、私を押し入れへと案内した。子どもの頃にかくれんぼに使っていた場所。

 父が折戸を開くと、そこにはおっきな雪だるまが佇んでいる。

 触れると、温かい。溶けることもできず、捨てることもできなかったのだろう。雪だるまの中には手紙が入っていて、『今までごめんね。それと、おかえり』とだけ書かれていた。
その他
公開:24/02/10 18:20

あおい。

ショートショート初めてですが、何卒宜しくお願いいたします。

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