仮面の森

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森は深い。林道から入ると鬱蒼とした闇に包まれ、目が慣れてくるとブナの原生林やシダ、灌木の茂みが見える。小川が流れ鳥が鳴く。この森を訪れる人は仮面を探すのが楽しみという。樹肌によくみると人の顔が見える。幹に絡む大きなツタの葉、茂みのフキの葉や小川の岩にも顔が見つかる。愛好者はそれらを仮面と呼ぶ。仮面を見つけるのは熟練を要する。顔らしきものでも、仮面と呼べるほどの顔は稀である。仮面に出会った人はその容貌をしげしげとみる。ひとときの対面が済むと清涼な満足感を覚えて森を出る。愛好者は静かに増えているらしい。
噂では、森には究極の仮面があるという。仮面を探す本人にそっくりな仮面だとか。究極の仮面に出会うと、しばらく言葉をなくし、鏡のようにじっと仮面と向き合い、笑みを浮かべて去る。究極の仮面に出会った者はその後、消息がわからなくなる。森で消えたのか、森を出たのかも不明。彼が二度と森に現れることはない。
その他
公開:24/02/03 09:49

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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