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そういえば、わたしが愛した男はみんな乳歯が残っていた。例えば―
ひどく酔って、バーカウンター越しにバーテンと下品なキスをしていた時の、突然に舌先が何かを貫通してどこか別の狭くて深い闇へすっぽりとはまってしまったかのような感覚は、突然に舌先が何かを貫通してどこか別の狭くて深い闇へすっぽりとはまってしまったかのような感覚だったとしか言い表せない。慄きながら強く吸い戻した舌先に異物がくっついてきた。それをダイリキが三分の一ほど残ったグラスへプッと噴き出した。少し黄ばんだ滑らかで複雑なフォルムのそれが、静かに沈んでいくのを、わたしは頬杖をついて、男は口を押さえて眺めた。それは男の最後の乳歯だった。
男とは、歯の空隙を永久歯が埋めるまで付き合った。空隙に舌先を差し入れるのが癖になった。歯が生え揃うと男は女を作って出ていった。わたしが大人にしてやったようなものだと思う。
ねえ、キスしない?
ひどく酔って、バーカウンター越しにバーテンと下品なキスをしていた時の、突然に舌先が何かを貫通してどこか別の狭くて深い闇へすっぽりとはまってしまったかのような感覚は、突然に舌先が何かを貫通してどこか別の狭くて深い闇へすっぽりとはまってしまったかのような感覚だったとしか言い表せない。慄きながら強く吸い戻した舌先に異物がくっついてきた。それをダイリキが三分の一ほど残ったグラスへプッと噴き出した。少し黄ばんだ滑らかで複雑なフォルムのそれが、静かに沈んでいくのを、わたしは頬杖をついて、男は口を押さえて眺めた。それは男の最後の乳歯だった。
男とは、歯の空隙を永久歯が埋めるまで付き合った。空隙に舌先を差し入れるのが癖になった。歯が生え揃うと男は女を作って出ていった。わたしが大人にしてやったようなものだと思う。
ねえ、キスしない?
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公開:24/02/02 21:32
シリーズ「の男」
星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。
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