昔、住んでいた部屋

２０年前に住んでいた町を娘と訪れた。
「懐かしいなぁ…昔、あの部屋に住んでいたのよ」
アパートの一室を指さす。そこには２０年前に私が使っていたものと同じカーテンが引かれていた。
その部屋の家主が家から出てきた。私達に近付いてくる。
「やぁ！久しぶり。２０年ぶりだね」
そう話す男性。かつて私が付き合っていた元カレと瓜二つだ。
「見てよ。君が部屋を出て行ったあの日から、そのままにしているんだよ」
男性は部屋の事を言っているのではない。自身の腹部に深々と刺さる包丁を私に見せつける。
「酷いじゃないか。僕を殺しておいて君だけ幸せになるなんて」
私の両手を見る。あの日と同じように血に濡れていた。あの日と違うのは今、包丁が刺さっているのは私の腹部だ。
「今度は逃がさないよ」
崩れ落ちる私。娘に「助けて…」と手を伸ばす。
娘は私に背を向け、走り去ってしまった。
その姿は２０年前の私の姿と全く同じだった。