新しい鍵

私の所属する悪の秘密組織への入り口は、カラオケ店の一室にある。
ここで特定の曲を歌うと、アジトへの扉が開くというシロモノだ。
今日も私は一人カラオケを存分に楽しむと、最後に鍵となる曲を歌い、アジトへと入る。
その姿を、正義の味方に見られてしまった。
正義の味方は私に続き、アジトに入ろうと歌い始める。だが、アジトへの扉は開かない。
思考錯誤する正義の味方。そうしていると店員がやってくる。
「ここで何をしているんですか？」
不審な目を向けられる正義の味方。
当然だ。女性が一人で入った個室を漁る男。犯罪のニオイしかしない。
「ちょっと事務所まで来てもらえますか？」
店員にしょっ引かれる正義の味方。ざまあみろ。
アジトの鍵を開くには、鍵となる曲を入れるだけではダメだ。歌うだけではダメだ。
ここで最も重要なのは”私が音痴である”という事。
声紋認証ですら判別できない私の音痴は、唯一無二の鍵である。