祈り紙

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子ども連れ限定のサービスなのだろう、初詣で巫女さんから折り紙をもらった。
五歳の娘は大喜び。帰って早速袋を開けた。が。
「すくなーい!」
入っていたのはたったの三枚。もらっておきながらだが、その少なさに笑ってしまう。
娘は不満気ながらもその一枚を抜き取り、覚えたての「ツル」を瞬く間に完成させた。
すると、それは一瞬光った後、美しい本物のツルに変わったではないか。
うそ。
「おい、これ見てみろよ」
上ずった声の夫が持ってきた袋に書かれていたのは、「折り紙」ではなく「祈り紙」という字。
「まさか」
夫は目の色を変え、スマホをいじり始める。どうやら「車」の折り方を調べているらしい。
私の願いはといえば、家族の健康。これに尽きる。絶対に折りたいし、折らねばならない。でも、どう表現すればよいのか。
寒風を感じて顔を上げると、娘の開け放った窓から三羽のツルが仲良く飛び立っていくところだった。
ファンタジー
公開:24/01/28 16:48
更新:24/01/28 16:56

藤原チコ

読むのも書くのも好きです。よろしくお願いします!

2022 ショートショート集『節目の一杯』をつむぎ書房より出版
2023 愛媛新聞超ショートショートコンテストにて「かぞくしんぶん」が特別賞に選ばれる
2024 第20回坊っちゃん文学賞にて「鯉のぼり」が佳作に選ばれる

発表し合える環境に感謝します。

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