新しい鍵

武田のじいさんが死んだ。
じいさんは結構な金持ちだったらしい。じいさんの死後、俺は初めてじいさんの親類縁者を名乗る連中を見た。
１０年以上音信不通。そんな奴らが欲しいのはじいさんの遺産だ。それ目当てに死後すり寄ってきやがった。醜いな。
しかもそいつら、じいさんの遺産を巡って毎日ギャーギャー騒いではケンカばかりしてる。縄張り争いする猫のようだ。
じいさんは遺産を小さな箱に入れ、鍵をかけた。この鍵を開けた奴が遺産を全取りできる。
そいつらは今日も家を漁る。鍵はどこだと探し回る。
猫の俺はそんな様子を銜え煙草で見つめる。
愚かな連中だ。じいさんの遺産はとっくに俺の手の中さ。
箱の鍵はこの煙草。スモーキー。愛煙家のじいさんらしい仕掛けだ。
はてさて猫の俺は大金なんて貰っても仕方がない。
だからこの金でじいさんの葬儀を行い、墓を建てた。
あとは毎日煙草を供え、じいさんとの思い出の鍵を開けている。