新しい鍵

子どもの頃、私は自分の声が嫌いだった。女なのに低い声。皆から「変な声」と笑われた。
だから自然と無口になる。口を開けば「機嫌悪い？」と聞き返され、人が離れていく。この手の話なら枚挙にいとまがない。
そんな声を好きになったきっかけは声の低い父の一言だった。
「歌うように言葉を紡ぎなさい」
父のアドバイスに従い、歌うみたく話しかけてみた。
「声、カッコイイね」
次第にそう褒められるようになった。
歌は感情を乗せやすい。父はそれを教えたかったのだろう。
でもそうなると今度は歌う時どうしたらいいのだろう？
「楽器を奏でるように歌ってみなさい」
私は低音楽器を思い浮かべる。
ベース、コントラバス、チューバ。それらをイメージして歌う。
「ライブみたいで最高だった！」
その言葉をきっかけに私は歌手になった。私はこの声で世界へと羽ばたく。
周囲からの送られる言葉は新しい鍵となり、いくつもの扉を開き続ける。