新しい鍵

海と山に囲まれた片田舎の食堂。ここの店主は持ち込んだ食材を何でも調理してくれる。
釣って来たばかりの魚を手に訪れる釣り人。撃って来たばかりの獣を手に訪れる猟師。
食材に貴賎なし。店主は全て美味しく仕上げてくれる。
そんな店主の元には時々、見た事のない食材が持ち込まれる。
以前、猟師がスカイフィッシュを持って来た。
UMAなんて当然、誰も調理した事がない。
だが店主は愛用の包丁から万能包丁へと持ち替えるとスカイフィッシュを捌き始めた。
「包丁ってのはね、料理の美味しさを切り開く鍵なんですよ。こいつに合う鍵が分からない以上、まずは癖のない新品の万能包丁で調理させて頂きやす」
慎重に調理を始める店主。出来上がった料理を口にすると未知の味がした。新たな食の扉が開いた。
やっぱり店主はすげぇや。
「あっしにだって調理できないものはありやす…例えば人魚。あっしはね、泣く子と美女には刃が立たねぇんです」