新しい鍵

小学生の頃、僕はトイレの花子さんに恋をした。
旧校舎の女子トイレ。使われていないその建物で、僕は彼女と出会った。
彼女は僕以外に見えていないらしい。見えたとしても、とても怖い姿だそうだ。
僕には可愛い女の子に見えているのに…でも、それを話すと不気味がられる。だからこの恋は誰にも話せない二人だけの秘密だった。
旧校舎の古い鍵。それを使う時、僕は花子さんの待つ家に帰っている気分だった。そんな将来を夢見ていた。
ある日、旧校舎の鍵が新しくなっていた。古い建物だ。老朽化で怪我をすると危ないからと入れないようにされていた。
僕は管理人さんにお願いして、新しい鍵を借りた。花子さんに会いに行った。
そこに彼女はいなかった。ただ、僕に別れを告げる手紙だけが残されていた。
誰にも話せない恋だけど、僕にも相談もせずに終わらせるなんて酷いじゃないか…
新しい鍵を手にする度、僕は今でもあの時の失恋を思い出す。