天秤花

本棚いっぱいの台本を整理していると、窓際の天秤花がいつの間にか花開いていた事に気づいた。アイリスに似た大きな青い花が天秤の皿のようにゆらゆらと釣り下がっている。ファンの方からの贈り物で、添えられた手紙には「咲いたら右のお花にご自分の努力の結晶をのせてみてください！」と書いてあった。

まだまだ駆け出しの役者である私。本棚に隙間なく詰まった台本達は、全て私の努力の軌跡だ。その中から初めて貰った台本で書き込みだらけのものを選び右の花へのせてみると、天秤は当然の如く右に傾いた。…何が起こるんだろう？天秤と同じ方向に首を傾けて眺めていると、左の花が黄金に輝く丸い実に変化し天秤が釣り合うまで膨らんだ。不思議な光景に夢中の私を現実へ引き戻すように、急にスマホが震え出す。

「この間のオーディション受かりましたよ！主役の！」

事務所からの電話だった。
天秤花は努力と釣り合う吉報を実らせる花だったのだ。