新しい鍵

声優になるという夢に私は、自分自身で鍵をかけた。
努力はした。だが、夢を叶えるには努力だけでは足りなかった。
才能を言い訳にしたくない。だけど夢で食べていける程、優しい世界でもない。
堅実に生きる為、私は声優の道を諦めた。普通に就職して、普通に働いている。
だけど、鍵を磨き続ける事だけは怠らない。ボイトレという努力は私とは切っても切り離せない日常となっていた。
そんな私に転機が訪れる。
VTuber。それに挑戦してみないかと言われた。
アバターに声を吹き込む。違和感はなかった。
私の身体に沁みついた習慣がここぞとばかりに発揮される。
私の声はモブ声だ。特筆すべきものは何一つない。
だけど、腐る事なく磨き続けたこの声は聞く人に親しみと安心感を与える。
私の努力は、無駄ではなかったんだ。
鍵は磨き続ける限り、いつかそれを発揮できる時が来る。
新しい挑戦の扉を開く鍵となる日を、ずっと待っている。