嘘という名の絵の具

画材屋を訪れた私はその日、嘘と書かれた絵具を見つけた。
「ああ、それ？それは他の絵具と一緒に混ぜる為の絵具だよ。嘘を少し混ぜて描いた絵は一見すると違和感がないように見えるんだ」
そう言えば、よくよく考えるとおかしいのに、ぱっと見ではその違和感に気付かない絵って結構ある。
「そういう絵は大体嘘が混ぜられているね。嘘を使う時は少しだけ。沢山使うと、嘘はバレバレになってしまう。まあ、あえて大量の嘘を混ぜて、騙し絵を描く人もいるけどね。嘘に塗れるって、この絵具が語源なんだよ」
知らなかった…でも、いい事を聞いた。
この絵具があれば、今度の絵画コンクールで優勝できるかもしれない。
嘘が私の足りない画力を補ってくれるかもしれない。
「あ～…それはやめた方がいいよ。この絵具ね、とても臭うんだ。その嘘臭さで絵画業界から鼻つまみにされた人、私は知っているから…」
店長は後悔の入り混じった笑みを浮かべていた。