勇者の話

子どもの頃は何でも出来ると思っていた。主人公だと信じていた。
勉強もスポーツも努力すればレベルアップできる。ゲームと同じだ。
だが努力には限界があった。天才を前に自身がいかに凡人か思い知らされる。
勇者？笑わせるな。俺はせいぜい兵士Aだ。
心が折れ、立ち上がれなくなった。
そんな俺に仲間が一本の剣を差し出した。
お土産屋でよく見かける、龍の巻きついた剣のキーホルダー。
「旅はまだ終わっていないぜ」
仲間と車で行先のない旅に出る。
行く先々で自身の世界を守る為に戦う勇者をたくさん見た。
うだつの上がらないサラリーマンもパートのおばちゃんも何かと必死に戦っていた。
それを見て俺は立ち上がる。
５０を過ぎ、ただのサラリーマンとして毎日を過ごす俺。
その鞄にきらりと光る、龍の巻きついた剣のキーホルダー。
才能なんて関係ない。俺は俺が磨き上げてきたもので今日も、明日も、勇者の戦いをしていくとしよう。