新年貝

元旦。年賀状とともに地元で漁師をしている友人から宅配便が届いた。
中身は地元民に古くから愛されている新年貝。
丁度いい。早速それをダシに鍋の準備を始める。酒類も多めに揃えておこう。
ぐつぐつと音を立てる鍋。慌てない慌てない。新年貝は蓋が持ち上がるくらい沸騰してからがスタートだ。
…もういいかな？吹きこぼれを始めた鍋の蓋を持ち上げる。
部屋中に湯気が立ち込める。その中に私は友人の姿を見つけた。
それも一人ではない。地元で仲の良かった友人グループがアルコール片手に笑いかけてくる。
『元気でやっているか？』『そっちで暮らしはどうだ？』
友人達の話声が聞こえてくる気がする。
気がするだけで、これは友人の声ではない。見えているものは幻だ。
私の地元では稀に蜃と呼ばれる貝の妖怪が年末に獲れる。これが新年貝の正体だ。
この貝が作り出すまやかしの新年会に参加した私は、来年は地元に帰省しようと心に決めた。