年末ＱＲコード

大晦日の町並みを妻と歩く。
「大晦日の静けさ。好きだったわ」
妻の過去形に頷く。「静かすぎるくらいだ」
「あなた、これ」通りかかった公園の掲示板にＱＲコードがあった。
「増えたんだ」と各々ワイヤレスイヤホンを装着しスマホで読み取った。
『ひのよーじん、カン、カン』と懐かしいフレーズが耳に流れる。
「今の時代、マッチ一本火事の元って続かないんだな」「マッチなんて使わないものね」と笑いあった。
寺の前に差し掛かると数人の人だかりが出来ていた。皆目当ては寺のＱＲコードだ。
コードが上手く読み込めず、老人が助けを求めてきた。妻が手際よく手伝うとちゃんと聞こえたようで「ありがとう。世知辛い世の中になったもんだ」と残し去っていった。
苦笑いしつつも妻と共にコードを読み取った。

ボーン

ボーン

イヤホン越しに除夜の鐘が響く。
風情ある生活音も騒音と見なされたこの世界を憂いつつ、新年に思いを馳せた。