心を感じる

私には心の声が聞こえる。
お隣りさん。ブラック企業に勤めているからか、心がいつも悲鳴を上げている。
「大丈夫ですか？」と私が声をかけても無視する。
そのくせ心は私に「助けて！」と叫んでくる。
そのあまりのうるささに耳を塞ぎたくなる。
だけど翌日、お隣さんの心の悲鳴が全く聞こえなかった。
いつものように「おはようございます」と声をかける。
…反応がない。
どうやらこの人も心が死んでいるようだ。
自分で自分の心を殺してしまったようだ。
鼻の奥がツンとする。
私はお隣さんの心が流す血の臭いに顔を顰める。
心が聞こえるのは厄介だが、心の臭いが分かるのもそれはそれで面倒臭い。
でもまあ、私は心が見えないだけまだましだ。
私の兄なんて心が見えるばかりに心の死体を見過ぎて心を病んでしまった。
そんな自身の心をも兄は自分で目視できる。さらに声まで聞こえるんだ。
兄が自分の心を殺すのに時間はかからなかった。