多様性の時代

0
1

豪華客船は沈没しようとしていた。原因は巨大流氷との衝突だ。真冬の海に投げ出されると凍死する。かといって遭難用のボートの数は限られる。
船長は決断した。
「女性と子供を優先して乗せるように」
たちまち抗議が殺到した。
「いまは男女平等の時代です。女性優先は政治的に正しくありません!」
「私は女性を自認しています。なのに男性扱いされるのは差別です」
現場の声を無視できなかった船長は、命令を改めた。
「子どもと老人を優先するように」
また抗議が殺到した。
「子どもと老人と言っても、様々な子どもと老人がいる。全員をひとまとめで扱うのは個性を無視した差別主義者だ」
「わたしは七十歳を自認している。自認を認めないのは、多様性の時代に反しておる」
船長は最後の声明を出した。
「政治的に正しく全員平等に死ぬことにしましょう。これぞ多様性の時代です」
結局、腕力のある人間が救命ボートの座席を確保したという。
SF
公開:23/12/20 21:47

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容