浮遊術教室

カルチャセンター講座「浮遊術」。初日は個室面談。個別指導らしい。講師は白いワンピースの品の良い老婦人。
「人間は浮遊できます」
「はあ」
「浮遊に必要なのは二つ。まず無心、邪念のない心」
「もう一つは？」
「浮遊の姿勢。特別な軽い服で仰向けに寝ます」
渡された服に着替えた。着ていたものを全部脱ぎ、真中に穴のあいた一枚の大きな白い布地を頭から被る。ドアを開けると広い庭に出た。西洋の庭園みたいに植え込みが整然とし針葉樹が等間隔で並ぶ。石のベンチに横に寝て目を閉じる。「薄目を開けて、眠らないように」
初回はそこまで。何回か通うと石の上でふわりと浮くことができた。練習すると、木の高さまで浮いた。薄目で周りを見ると他の生徒も浮いている。若い女性がそばを流れて過ぎる。目で追うと彼女は木の先端に引っかかり、枝先に白い服だけがはらりと垂れる。
「いかん！」と気づくのと地上にどしんと落ちるのが同時だった。