素敵なすき間

「桜の木の下には死体が埋まっている。その噂を広めたの、私なんだよね」
花見で隣に座った女性が突然そんな事を言い出した。
「花見の席って、全然関係のない他人が混じっていても意外と気付かないんだ。それが幽霊であっても意外と馴染むんだ。そう！実は私、幽霊です。生きている人と楽しい一時を過ごしたくて出て来ちゃった」
どう反応していいか分からず、愛想笑いを浮かべ頷いておく。
「その顔、信じてないな。よし分かった。見てろ…３…２…１！」
強い風が吹き、桜の花びらの嵐が私の視界を一瞬覆い隠した。
目を開くと隣には一人分の隙間。そして「ほらね…」と薄桃色に溶けた言葉が耳に残り続けた。
『どうかしました？』
呆然とする私に空白席を挟み聞いてくる女性。
何でもないです…と言おうとしたが「桜の木の下には死体が埋まっている…そんな噂を広めた幽霊の話をふと思い出していました」と、仲良くなりたい一心から口にしていた。