Bar Vapor

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空に星屑の冬の夜。宴会を終えての家路、駅から気まぐれにいつもと違う道を歩くと見かけない洒落た店の灯り。ドアを開けた。カウンター席が七つの小さなバー。マスターが一人。客はいない。
「いらっしゃいませ」
「いい店だね」
「ありがとうございます。何になさいますか」
「水割りを」
マスターはウイスキー瓶をさらりと見せて作り始めた。
「店の名の意味は?」
「Vapor、蒸発という英語です」
「ここで飲んだ人は蒸発する?」
「突然失踪した人を蒸発人間て言いましたね、昭和に」
「よく知ってるね。美味しい」
「どうも」
「または、この店が蒸発する?」
「ご冗談を。Vaporは続きます」
五、六杯は飲んだ。他に客は来ない。腰を上げた。

外には星が一つもない。道も家々も消えている。振り返るとバーの灯がない。店がない。ネオンも街の雑音も何もない灰色の空間。あ、世界が消えたのか。俺以外の世界が蒸発したようだ。
その他
公開:23/12/19 18:58

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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