素敵なすき間

排水溝に指輪を落としてしまった。
どうしよう？と焦る私に、彼は平然と「それなら隙間屋に取りに行こうか」と言う。
隙間屋？何それ？
「隙間屋は排水溝とか側溝とか、隙間に落としたものを取り出してくれる店なんだ」
それなら、お店に行くんじゃなくて呼ぶんじゃないの？
「いやいや、隙間屋は落としたものを取り出せる不思議な隙間を持っていてね。そこに指を突っ込むと隙間に落としたものを摘み上げる事ができるってわけ。だから隙間に落ちるような小さなものじゃないと取り出せないんだ。ま、行ってみれば分かるって」

１時間後、私は指輪を取り戻していた。まさか本当にあんな小さな隙間から指輪が出てくるとは思わなかった…
てか、何で彼は隙間屋を知っていたんだ？彼も何か大切なものを隙間に落とした過去があるのか？
「俺が落としたもの？これだよ」
彼は私に小指を見せてきた。それは一度は切れた事のある、私との運命の赤い糸だった。