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「この本は書庫にしまおう。」

館長が、涙の棚から本を抜き取り優しく撫でる。

「その本ですか?隣の方がボロボロなのに…。」

新米司書である私は、館長に書庫へ移す本の選び方を教えてもらっている。

「そうだね。でも、ここの主は悔しい事がある度に、これを読み返して涙を力に変えているんだ。だけど、こっちは手に取る度に悲しみに沈んでしまうから、もうしまった方がいい。」

そもそも、なぜ定期的に書庫へ本をしまうのだろう。

「隙間が必要なんだ。」

私の心を読んだのか、館長は本棚を整理しながら話を続ける。

「涙の本だけじゃない。笑顔も怒りも…全部ここへ並べていたら、窮屈になって必要な本が取り出しにくくなってしまう。それに、新しい本も入れる余裕がなくなるだろう?…おや、ここに紛れていたか。」

隙間のできた本棚から、館長が見つけたのは笑顔の家族が表紙の本。

「これは幸福の棚へ戻さないとね。」
ファンタジー
公開:23/12/11 23:16
月の音色 素敵な隙間

ネモフィラ(花笑みの旅人)( 気の向くまま )

いつもご訪問ありがとうございます!
元:ネモフィラは咲うです。大原さやかさんのラジオ「月の音色」では、ペンネーム:花笑みの旅人として投稿しております。

日常に寄り添い、読んだ人がほんのすこ~しだけ前向きになれるような物語を書けたらいいなぁと思っています。

現在、少々多忙につき投稿のみのログインになる可能性が高いです。よろしくお願いいたします!

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