6
3

「この本は書庫にしまおう。」

館長が、涙の棚から本を抜き取り優しく撫でる。

「その本ですか?隣の方がボロボロなのに…。」

新米司書である私は、館長に書庫へ移す本の選び方を教えてもらっている。

「そうだね。でも、ここの主は悔しい事がある度に、これを読み返して涙を力に変えているんだ。だけど、こっちは手に取る度に悲しみに沈んでしまうから、もうしまった方がいい。」

そもそも、なぜ定期的に書庫へ本をしまうのだろう。

「隙間が必要なんだ。」

私の心を読んだのか、館長は本棚を整理しながら話を続ける。

「涙の本だけじゃない。笑顔も怒りも…全部ここへ並べていたら、窮屈になって必要な本が取り出しにくくなってしまう。それに、新しい本も入れる余裕がなくなるだろう?…おや、ここに紛れていたか。」

隙間のできた本棚から、館長が見つけたのは笑顔の家族が表紙の本。

「これは幸福の棚へ戻さないとね。」
ファンタジー
公開:23/12/11 23:16
月の音色 素敵な隙間

ネモフィラ(花笑みの旅人)( 気の向くまま )

読んでくれてありがとう!

寒い季節になったから、気が向いた時にふらりと立ち寄ってゆるーく投稿しています。

少し早いですが、よいお年を!

 

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容