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「ここはもうちょい広げねぇとダメだ。」

先輩は右の行をポンポン叩きながら言った。

「そうですか?さっきの行間とそこまで差はないかと…。」

私達は本の行と行の隙間を整備する【行間整備士】だ。適切な広さに行間を保つのが仕事。

「いや、1ミリ狭い。これだと作者の声が上手く通らねぇ。」

先輩に言われて耳を澄ます。

―少女は――を本当は――だが――になれな――

本当だ、作者の声が詰まっている。
「行間を読む」という言葉があるように、読者の中には行間を流れる作者の声へ耳を傾けるのが好きな人も多い。しかし、行間の幅が適切でないと声が詰まったり散逸してしまって、行間を読みづらくしてしまうのだ。

「よーし、お前はもうちょいこっちな~。」

正確な距離を測り、右の行を先輩が優しく並べ直していく。

―少女は少年を本当は好きだが素直になれない―

詰まっていた声が、上手く流れ出したようだ。
その他
公開:23/12/11 23:11
更新:23/12/11 23:23
月の音色 素敵な隙間

ネモフィラ(花笑みの旅人)( 気の向くまま )

読んでくれてありがとう!

寒い季節になったから、気が向いた時にふらりと立ち寄ってゆるーく投稿しています。

 

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