しゃべる壁

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今日も小馬鹿にした口調で『壁』は私の悩みを真正面から切り捨てた。
会社を辞めればいい、なんてわかりきってるんだよ。
そう返すと、壁は(顔なんてないが)明らかにげんなりしていたが、話を止めることはしなかった。
壁と会話し始めたのは小学生の頃。
友達がいなかった私は、壁に向かって会話の練習をしていたら、ハープみたいな優しい声で返事が返ってきた。結局友達はできなかったけど、「壁」がいたから全然気にならなかった。
「壁」と話している娘を見て、親は特に何も言わなかった。想像力が豊かな子くらいに思ってくれていたのだろう。
中学生になる頃にはいつもの間にか「壁」と話すこともなくなった。
しばらく「壁」と会話できることは忘れていた。
『壁』が現れたのは社会人になった頃だった。
今度の奴はかなり、口調は乱暴。だが優しい声だった。
でも私はもう大人なのである。
私は外に出て、隣の部屋のチャイムを押した。
SF
公開:23/11/28 12:08

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