スーツ

　イギリス人とイタリア人がスーツの仕立てについて言い争いをしていた。
「分厚く硬い生地にメリハリシルエット。これをクリアしていないスーツはスーツじゃない！」
　イギリス人が語気を強めて言った。
「前時代的だなぁ。着心地の良い柔らかな生地をピッタリと体に纏わせる喜びを理解できないのか」
　イタリア人が嘲笑った。
　その口争を聞いていたアメリカ人が鼻で笑った。
「全く、連中は馬鹿か…。自分に見合う店で自分に相応しい物を買えばいいだけの話じゃないか。オーダーメイド？そんなまどろっこしいことしてられるかよ」
「そうだそうだ！我が国のリクルートスーツだって化学繊維製だから洗濯機で洗えるし、5万もありゃシャツやネクタイや鞄まで一式揃うくらいリーズナブルなんだぞ！」
　アメリカ人の靴を舐めていた日本人が息巻いた。
「スーツってそういうもんじゃないんだけどなぁ…」
　日本人以外の三者が密かに思った。