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「久しぶりだね」
「一年ぶりだわ」
海岸通りに面した夜のレストラン。窓際のカウンターに並んで座った。
大きな瞳に黒い髪の彼女は、相変わらず美人だ。
「突然の出発だったから驚いたよ」
「私だってびっくりしてるわ」
「今は何してるの?」
「新しく来た人たちを案内する仕事よ。最近はウクライナやパレスチナから来る人が多くてね。英語が通じないから大変」
彼女は有能な通訳だったのだ。
「新しい環境には慣れた?」
「居心地は悪くはないわ。退屈な時もあるけどね」

目の下に、水銀灯に照らされた横断歩道が見える。
彼女が旅立った現場だ。照明は事故の後で設置された。
あの夜、この店でプロポーズをするつもりだったのに……

店内の大きな鏡には俺の姿しかない。幽霊は鏡に映らないのだ。
「今度はいつ会えるかな?」
「あら、あたしはいつもあなたと一緒よ」

そうだよな。いつまでも一緒だ。
恋愛
公開:23/11/25 07:04
更新:23/11/25 07:15

こむぎの父( 愛知県 )

名古屋市で教員をしています。ショートショートって楽しいですね。

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