一期一会の十人十色

0
2

雨宿りで入ったバーで、彼とは出会った。
慣れない椅子によじ登り身を固くする私。
泳いだ目は隣のグラスにすぐに釘付けになった。

「ビール、お好きなんですか?」
彼と目が合う。
嫌いではない。が、その透き通る琥珀色に初めて魔力めいた美しさを感じた。
口籠る私に彼は続ける。
「ビールって一口に言っても色んな子がいてねぇ。あ、良かったら同じものどうですか。僕が出しますんで」

…苦い。ありがたく頂戴したものの、飲み慣れない刺激に目が白黒する。
「すいません、苦かったですか?でも、奥にあるキャラメルみたいな甘みが好きで」
そこからは彼の独壇場だった。
新しいグラスは毎回違う輝きを放ち、その度に彼の舌が回る。

相当な変わり者だな、と半ば呆れかけた時。
「こんなに熱心に聞いてくれるなんて、あなたも僕もクラフトビールみたいだなあ」
なんだそりゃ、と困惑しながらも吹き出す。
雨はとっくに止んでいた。
恋愛
公開:23/11/19 22:00

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容