コップ【出力】

その事に気付いたのは夜だった。食器棚の方から声が聞こえて来る。あんな狭い所に何がいるのだろう。恐る恐る食器棚を開けると、音は最近買ったコップから聞こえてきた。言語はよくわからないが何やら歌っているようだ。とりあえず騒音になるのでタオルでぐるぐる巻きにしてその日は眠った。それから何日も声が聞こえるのでその事を友人に相談したらいっそのことオークションに出すことを勧められた。その勧めに乗り夜になると声を出すコップとしてオークションへ出品した。オークション会場では実際にコップから声が出る様子を見て、物好きが多額の金で競っていった。最終的にコップは一億円の値で売られた。非現実的な額にニヤケが止まらなかった。しかし売られた何日か後、買い主が不良品だと文句をつけてきた。何でも突然割れた音がしたらそれ以来声が出てこなくなってしまったらしい。結局一億円は返却する事になった。ああ、ずっと喋ってくれていれば。