旅するクラフト

路地裏に「旅するクラフト」と書かれた看板があったので、立ち寄った。
「いらっしゃいませ。今夜はどんな旅を？」とマスターが言った。
「旅ですか」突然の質問に少し戸惑った。きっとビールの好みを知りたいんだろう。
「うーん、自然の香りを感じたいです。夜の大地のような、安定したエールで」
「それでは荒野のエールをどうぞ」
差し出されたビールをさっと手に取り、目を瞑って口元に運ぶ。
次の瞬間、あたりの草木が苦く爽やかな香りを放っていた。視線の先には大地が広がっている。夜空には煌びやかな星が幾千も浮かぶ。ふと背後で獣の唸り声がし、振り向くと一匹のコヨーテがいた。彼は何かを伝えたがっているように私を見つめていた。その気持ちを受け止めたかったが、時間がなかった。次第に意識が遠のいていく。
「どうでした？」とマスターが訊いた。
「コヨーテがいました」
「続きが気になりますね」
私はビールのお代わりを頼んだ。