夕焼けのお客さん
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ある小さな町役場。西面の窓から差し込む杏色の光が、古ぼけた床の上で思い切り伸びをする頃。一人で土曜当番をしていた秋子は西の空に見慣れない小さな影を見つけた。それはちょうど秋子のいる三階と同じ位の高さで浮かんでおり、ゆっくりとこちらへ向かってきていた。目を凝らしていると、それはどうやら中型の犬。前足で白い風船を持っており、その風船の力で浮いているようだった。あら大変、と秋子は窓を開けて犬を迎え入れた。犬は秋子にお礼を言い、風船を持つのって意外と肩が凝るんですよね、と言いながら勝手に部長の席に座った。その図々しさが秋子は妙に愛おしくてウフフと笑った。秋子は缶ビールを出してやり、自分の水筒と乾杯して世間話をした。白色の尻尾を見ていると秋子は急に懐かしさに襲われて泣きそうになったが、土曜日の夕方って何故かおセンチになるのよね、と思いながら犬の爪切りの話を聞いていた。外には、彼岸花が揺れている。
ファンタジー
公開:23/11/19 23:56
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