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 子どもの頃、フミは熱を出すと決まって同じ夢を見ていた。自分の身長が小さくなって、和室の天井のから下がっている電灯のふちに立っているのだ。木枠の中に、丸形の蛍光灯がはめられた電灯は、ところどころに配線用の穴が開いていて、その穴にも足を取られそうになる。電灯から落ちることもあれば、落ちずに目を覚ますこともある。それが熱や症状の重さによるのかはよくわからない。
 大人になってからはこの夢は見なくなった。そもそも熱を出すことも少なくなったし、まずもって家に木枠の電灯もない。この二つの条件が合致する機会は、もう10数年前に実家が改築されてから、永遠に失われてしまったのだ。はずだった。

 「ゴホッ、ゴホッ。38度2分か。うん、なかなかいい調子だぞ。」フミは体温計を戻し、薄着のまま家を出る。
 「さて、前から目をつけていた例の民宿に行ってみよう。創業30年。可能性は高いぞ。」
その他
公開:23/11/19 03:02

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