見エール！聞こエール！味わエール！

子どもの頃から大好きだった海賊冒険漫画がついに完結した。
百冊を越える巻数はまさに圧巻の一言。私はそれを全巻樽に入れ醸造し、ビールを作った。
一杯め。目の前に主人公が現れた。豪快に酒を飲む姿が気持ちいい。ごっきゅごっきゅと音を立て、二人で口の周りに泡の髭を作って笑い合う。
二杯め。ヒロインの魅力にメロメロな私は見事に酔わされた。
三杯め。主人公と肩を並べ、ライバルと睨み合う。負けてなるものかとジョッキを握る手にも力が入る。
四杯め。五杯め。六杯め…
長い年月をかけ、私もついに漫画本で作ったビールを飲みつくす時がやって来た。
私の横には主人公が、ライバルが、ヒロインがジョッキを手に今か今かとその時を待っている。目の前のラスボスだってそうだ。
私の「乾杯！」に全員がビールを口にする。私はラスボスの向こうでひっそり飲んでいる人に「お疲れ様でした」と声をかけた。
作者は嬉しそうにジョッキを掲げた。